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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3336号 判決 1950年6月17日

被告人

金中基

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人の控訴趣意第二点について。

弁護人は原判決は証拠として原審証人山口勝の供述を採用せずして検察事務官の同人に対する供述調書を採用しているが、山口勝の原審の供述には何等の矛盾もなく信憑力十分である。右供述調書を特に信用せねばならぬ特別の事情はないと主張するけれども、刑事訴訟法第三百二十一條第二号によれば検察官の面前における供述と公判期日における供述とが矛盾している場合で後の供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときは之を証拠とすることができるのである。而して山口勝は原審公判で被告人から、恐喝された事実を否認しているから、この供述が右供述調書と実質的に異つていること明瞭である。よつて公判期日の供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況があるかどうかを考えてみるに山口の公判期日に於ける供述は被告人が宝喫茶店に三百円の借りがあるので、一寸貸して呉れ女にことづけてすぐ返えすからといつたので貸してやつたという趣旨であるが、すぐに返金できるのに借金をするということは矛盾しており、山口が左様な申込を真実と信じて被告人に金員を貸与したとの供述は容易に信用し難く、然も山口はいわゆる被告人の友人でないが、被告人が拳鬪をやるということを聞いているし、当夜被告人に殴打せられ次いで喫茶店に入り、そこで金を貸せといわれて貸したというのであつて、山口が本件によつて被告人を怖れるに至つたというのは無理からぬことである。かかる被害者が検察事務官のみを前にして真実を述べることは寧ろ極めて自然のことであるが、恐喝者その他関係人の面前で恐喝者の不利益な供述をし、又は自分が畏怖したということを明言することは却つて極めて困難なことである。従つて原審証人岡田知行の供述によつて知らるるように、本件供述調書は山口の任意な供述によつて作成せられたことが明らかであり、且つ本件供述調書の方が原審公判における山口の供述よりも信用すべき特別の情況の下に作成されたものと認めるのが相当であるから原審の採証は至当の措置である。論旨は採用できない。

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